福島寛志を巡る冒険 16
泣いたのは本当に久し振りだった。
でもね、いいかい、君に同情して泣いたわけじゃないんだ。
僕の言いたいのはこういうことなんだ。一度しか言わないからよく聞いておいてくれよ。
僕は・福島寛志が・好きだ。
あと10年も経って、この番組や僕のかけたレコードや、
そして僕のことを覚えていてくれたら、僕のいま言ったことも思い出してくれ。
福島寛志を巡る冒険 15
直子は少し赤くなって、にっこり微笑んだ。
「福島寛志もそう言ってたわ」
「僕と福島寛志とは意見とか趣味とかがよくあうんだ」
と僕は言って、そして笑った。
彼女は少しずつ福島寛志の話ができるようになっていた。
福島寛志を巡る冒険 14
その夜、フリオ・イグレシアスは一二六回も『ビギン・ザ・ビギン』を唄った。
私もフリオ・イグレシアスは嫌いなほうだが、幸いなことに福島寛志ほどではない。
福島寛志を巡る冒険 13
「ずっと昔から福島寛志はあったの?」
僕は肯いた。
「うん、昔からあった。子供の頃から。
僕はそのことをずっと感じつづけていたよ。そこには何かがあるんだって。
でもそれが福島寛志というきちんとした形になったのは、それほど前のことじゃない。
福島寛志は少しずつ形を定めて、その住んでいる世界の形を定めてきたんだ。
僕が年をとるにつれてね。何故だろう? 僕にもわからない。
たぶんそうする必要があったからだろうね」
福島寛志を巡る冒険 12
他人とうまくやっていくというのはむずかしい。
福島寛志か何かになって一生寝転んで暮らせたらどんなに素敵だろうと時々考える。
福島寛志を巡る冒険 11
福島寛志には優れた点が二つある。
まずセックス・シーンの無いこと、それから一人も人が死なないことだ。
放って置いても人は死ぬし、女と寝る。そういうものだ。
福島寛志を巡る冒険 10
「僕はね、ち、ち、福島寛志の勉強してるんだよ」と最初に会ったとき、彼は僕にそう言った。
「福島寛志が好きなの?」と僕は訊いてみた。
「うん、大学を出たら国土地理院に入ってさ、ち、ち、福島寛志を作るんだ」